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昨年、デビュー40周年と還暦というダブルアニバーサリーな年を迎え、それまでの集大成というよりは、20歳のデビューからずっと走り続けてきた40年が凝縮された、豊かなステージを見せてくれたみのや。良きにつけ悪しきにつけ、歌で人生を綴る彼にとって、そこは一つの到達点であり、同時に通過点でもあった。今年新たに41年目のステージをどんなふうに見せてくれるのか、期待を込めて12月18日、道新ホールへ足を運んだ。
冬空が広がる札幌、大通公園にはミュンヘンクリスマス市が開かれ、華やかなイルミネーションとともに師走の気分を掻き立てている。寒さから逃れるように辿り着いた会場では、早くもステージの始まりを待ち構える人々の期待と熱が渦を巻いていた。
「いとしい名前」「僕達は」からスタート。はやる気持ちを抑えきれない観客の軽いざわめきも、ステージの向こうへ吸い込むかのように、スッとみのやワールドが立ち上がった。
いつもの調子でトークを重ねると、滑り出しは上々。デビュー曲の「白い嵐」、ちはらさきへの提供曲「雪の花」「さよならの花が咲く」と続く。トークをはさんでアントニオ猪木へのオマージュともとれる「夢しかなかった」続いて「泣きたくなったら此処へおいで」を歌い終える頃には、会場中がすっぽりみのやの懐に収まった気がした。
弾き語りで「百の言葉、千の想い」「お天道様は見ている」トークをはさんで「愛が泣いている」で前半終了。
「道」「いつか涙で笑いあいたい」で後半スタート。デビュー当時のエピソードやデビューのきっかけなどのトークをはさみながら、バンドをバックに歌ったり「smile
again」では弾き語りを披露したりと楽しませてくれる。そして「笑えないピエロ」「胸いっぱいの人生」の二曲あたりでみのやの中に高まってきたものが寅さんのトークをはさんでも抑えきれなかったのか、ラストの「ただあなたのために」を力の限りを込めて歌いあげると、精魂尽きたようにがっくりと座り込んだ。
大掛かりな仕掛けや眼も眩むようなレーザー光線が飛び交ったり、本人が宙を舞ったりするわけでもない。小芝居をしたり、ゲストを招いたりもしない。一切の派手な演出を省いても、本人の言葉だけ、それはトークしかり、歌の歌詞しかり、それだけで観客の心を捉えて離さない。年を追うごとにそれはどんどんシンプルな形になっていったように思う。そしてそこにはみのやと観客の間に結ばれた信頼とか絆といったものが、どんどん濃く、深く、強固なものになっていったからに違いないとの思いが消えなかった。
ふと、昨年ダブルアニバーサリーのステージに対し、こちらが結構身構えて臨んだ記憶がある。それほどにほとばしる熱さを、たぎる激情を、40年分浴びてやろうと肩に力が入っていたのだろう。見終わってみれば感動と熱は走り続けた40年分の重みより、40年は一つの到達点には違いないが同時に通過点でもある、そこをみのやと一緒に走り抜けたような爽快感を覚えたものだ。いっそ軽やかで晴れ晴れとした気分だったのだ。
今回41年目を数えるわけだが、みのやにしてみれば、昨年ダブルアニバーサリーで来し方を振り返り、その時の自分を精一杯届けてくれたわけだから、今年はまたあらたな目標をどこに定めようと全方位自由な身軽さで、ある種ゆとりのようなものさえ感じ取れた。それこそがツアータイトル「ただあなたのために」につながる温かさに満ちたものになったのだろう。今回のステージは、これまでのようなステージの最初から最後まで「かかってきなさい!」というパワー全開の熱さより、一段柔らかく、心地よく観客を包み込んだ。
アンコールの「moonlight」「愛だけは」のころには観客もその心地よさにすっかり癒され、
「伏線回収」「夢」と結んで「RLTツアー2022ただあなたのために」のステージを舞い落ちる雪のなかで閉じる演出に酔わされた。
みのやは40年という節目を通過して、41年に新たな一歩を踏み出したのだな。声高に宣言したりはしないけれど、この日のステージはそれを伝えていたと思った。みのや雅彦の42年目から先もずっと見届ける、その思いを強くした一夜だった。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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