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もう20年経ったのか、とあらためてその月日を思い返しながら、会場に向かう自分の足取りが軽いのを感じていた。夏の夕暮れ時、おりしも札幌は豊平川の花火大会開催の日、浴衣姿の若い女性達が、ぽつりと来そうな空模様など気にせぬようにそぞろ歩いている。傍らのビヤガーデンでは明るいうちから盛り上がりを見せている。そうだ、この感じだ。彼らのステージに足を運ぶ時の、今日は何を聞かせてくれるかなという期待感が、ドキドキやワクワクのはじまりと重なる。
会場のサッポロファクトリーホールに着くと場内はたちこめたスモークに青いライトが滲んで、夏の夜空か海の底のよう。と、ステージにはドラムにキーボード、パーカッション、ピアノがセットされ、「えっ?バンド編成?」と驚く。ステージ横のスクリーンでは早くもVOICEのヒストリー映像が映し出され、そわそわした気持が高揚感へとシフトしていく。
そしていよいよ登場した彼らは、なんとエレキギター、ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、ピアノ、サックス、バイオリンを引き連れ、圧倒的なサウンドであの美しいハーモニーを会場にふり注いだのである。様々な楽器が織りなす音の厚味の中を、2人の歌声は縦横無尽に駆け巡る。それはリズムという縦糸とメロディーという横糸が織りなす楽曲に、2人のハーモニーが彩りを与え、生き生きとした命が吹き込まれていくのを見るようでもあった。
「東京の魚」「戻れないなら」そして新アルバムから「夢うつつ」と披露したところで2人のトークを挟み、今度は2人だけのアコースティックヴァージョンで「握手」「悲しみダイアリー」を届けてくれる。2001年から始めた彼らのアコースティック・アルバムシリーズ“彩”を彷彿とさせる。双子の彼らは弟の別所芳彦が曲を作り、兄秀彦が詞を書く。せつなく美しいメロディーに優しく繊細な詞がのるというのが彼らのスタイルだ。せつないメロディーが楽曲のおおかたを占めるのはせつないのが好きだからという芳彦に、せっかくだから盛り上がってみるのもと水をむける秀彦。トークの妙はまるで芸人のそれのようで、客席をわかせる。
その後、メンバーの顔ぶれを一通り紹介してふたたびバンドセットに戻ると、彼らの大ヒットしたデビュー曲「24時間の神話」を聞かせてくれた。それも新ヴァージョンで。今回8月9日に発売される新アルバムは、デビュー20周年を記念したその名も「声人式(せいじんしき)」と名付けられ、彼らの名作8曲のセルフカバーに、新曲2曲が収録されている。セルフカバー中の1曲が「24時間の神話〜声人式」で、ピアノと弦楽器で一層美しさの際立つ作品に仕上げられている。2002年にアンプラグド・バージョンでもリリースしているが、また神話のあらたな1ページが書き加えられたわけだ。
後半はバンドサウンドを十分に生かしたアップテンポの楽曲や、華やかなライティングでステージを盛り上げ、繊細な美しさを漂わせるハーモニーが、こんなに熱く楽しくもなれるんだというところも見せてくれた。(4曲で息があがったのは内緒にしておこう)
元々バラードに真骨頂をみるVOICE、根強い人気のある「STAY〜あなたの声が聞きたい」や堀江淳とのコラボも話題となった「北の国のダイヤモンド」のように、いつまでも歌い継がれる名曲が色褪せない一方、声人式バージョンで「24時間の神話」を聞かせるという試みにも挑戦する意欲的な姿勢も兼ね備えている。
20周年の感謝を、支えてくれた全ての人にこめ、ステージから繰り出される楽曲の数々は、さながら夜空に散りばめられた星屑のようで、それぞれの心にきらめきを置いていく。そうだ、彼らのステージはいつも心の底に降り積もる余韻が心地良くて、いつまでも味わっていたくなるのだった。
かつて彼らにインタビューした時「ライブが自分たちの生命線だと思っている」と言ったのを覚えている。今回アンコールで両親を紹介し、元校長先生のお父さんが立派な挨拶をしたあと「(両親が元気なうちに)紅白に出たい」との目標もポロリと口にした彼ら。ご両親やファンを始め、その目標達成を見届けたいと思っているのは、開場を埋めた観客ばかりではない。この20周年記念のツアーは、7月21日の増毛に始まり、11月まで全国各地を丹念に回る。日本中に彼らを支え、彼らの歌を待ち望んでいるファンがいるのだ。
ステージを終えようとする彼らを見て、ふと思った。もう20年、いや、まだ20年である。みずみずしさを失わない歌詞と旋律。胸の奥底まで響く2人のハーモニー。今回の新アルバムのキャッチにも「あれから20年・・・今、新たな神話が始まる」とあったが、今夜その始まりに立ち会ったような気がしてならない。最後に「終わらないドラマ」を聞いてその思いを強くした。
(文:音楽ジャーナリスト 内記 章 2013年8月1日)
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