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毎週土曜日にラジオから流れてくるあの声が聞かれなくなって、もう二年以上も経つ。歯に衣着せぬ物言いは、好き嫌いの分かれるところでもあったが、持ち上げたり落としたり、叱ったり心配したり、自由自在に相手を操るその話術は、手練れの技とでもいうべきか。しかし、ひとたびその懐に入れば、厳しさとやさしさで、惜しみなく愛情を注いでくれる人でもあったようだ。
日高晤郎という人はラジオの世界だけでなく、芸事や音楽の世界にも多大な影響を与え、足跡を残した。その人となりや来歴ばかりでなく、ゆかりの人々への取材も交え、一冊の本にまとめたものが「日高晤郎 フォーエバー」である。
著者は北海道新聞の記者時代から彼を取材し、同紙夕刊の「私のなかの歴史」で話芸人、日高晤郎を取り上げ、32回にも及ぶ長期連載を行った。インタビューを重ね、人柄に触れ、また芸人の世界を垣間見ることで、日高晤郎が何を見据え、何をなしえたか、を丹念に辿っていった。
そこには、決して順風満帆ではなかった時代も、役者や歌手の時代を経て、ラジオを糸口に話芸という一ジャンルを確立させた後も、常にぶれることなく己の道を貫いた、一人の男の姿がくっきりと浮かび上がっている。
74歳という人生の唐突な幕切れに、三回忌を過ぎた今も、周囲にはまだどこかに日高晤郎が生きているような、ラジオからあの声が流れてくるような、錯覚や戸惑いがあるのかもしれない。思い出にしてしまうにはあまりにも鮮烈すぎるその存在の前で、迷子のように日高晤郎という幻影を追い続ける人々に、この一冊を手に取ることをお勧めしたい。熱く、深く、よみがえる感動に身をゆだね、彼が残したものを大切に生きることへ思い至れば、歩を前へ進めることができるだろう。
また、日高晤郎を知らない世代に、こういう時代があったこと、そして見事に生き切った男がいたことを伝えるのに、これほどふさわしい本もないだろう。ラジオの世界、音楽の世界、芸事の世界、はいうまでもなく、大人の社会や生きるということを学ぶ手立てや、心に刻み付けたい言葉がふんだんに散りばめられ、読み物としてもずっしりとした手ごたえを得られる一冊である。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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